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新緑の森のダンジョン 春の嵐 3-2

大変お待たせいたしました!
春シリーズ3-2、スタートです!






ドアを開けると、彼女の部屋はなかなかの惨状を呈していた。

”とりあえず、使える板も使えなさそうな板も窓から出しとくッスよー。”

”今日は晴れてるから大丈夫でしょ。それと、さっさとメリープの毛どけて!”

”ふわふわしてるから羽で飛ばさないようにしないとねぇ。”

”秘密も一緒に飛んで行ったら大変。”

下心むき出しのコメントにより、着々と片付けは進んでいるようだが、散らばっている物が半端ではない。

真っ二つになったベッドからは木くずがばら撒かれ、敷かれていたマットからはメリープの毛があふれ出し、尋常ではない埃が宙を舞っている。

「うーん……、シュウさんの怒りが目に見えるようですねぇ。」

スリッパ越しに小さな木片を足の裏に感じつつ、ベッドに歩み寄った。

そっと先程まで横たわっていたシーツに触れる。







アブソルが異変に気づいたのは目覚めた直後だった。

「困りましたねぇ……。」

ベッドに寝転び、上げた左腕を苦笑しながら見上げていた。

右腕は上げられない。

彼女の体の下にあるからだ。

別に下敷きにされているわけではない。

右腕は彼女の体を抱きしめたままだということだ。

引き抜くことは簡単に出来る。

しないのは、彼女をまだ眠らせておいてやりたいからだ。

彼女は自分にくっついて寝息を立てている。

胸元に頬を寄せ、幸せそうに。

右腕を引き抜いてしまったら、振動で起きてしまうだろう。

そんなわけで、アブソルは起き上がることも出来ない。

「シュウさんはつくづくハルカさんを大事になさっているようですねぇ……。」

一晩中抱きしめているなんて。

もしかしたら、寝返りも彼女を抱きしめたままで打つのかもしれない。

器用な人だ。

アブソルはくつくつと喉の奥で笑う。

自分の体がシュウになっていると気づいたのは目覚めてすぐだ。

目を開けると、そこにハルカの寝顔があった。

それだけで、何故か気づいてしまったのだ。

今、自分はシュウになっていると。

「どうしたものでしょうかねぇ……。」

もちろん、気づいてから色々確認してみた。

何かの間違いではないかと。

しかし、この左腕はどう見ても人間の男性のもの。

そして、この声。

自分で出した声はいつも聞いている声と随分違う。

しかし、これは紛れもなくシュウのものだ。

口調は違うにしても、それはしゃべっているのが自分だからだし。

「ねえ、ハルカさん。」

左手を下ろして、彼女の髪に触れる。

繊細な手触り。

鋭くもなく、ただ指の先に張り付いているだけの爪は決して彼女を傷つけない。

指先が伝えてくるのは、さらさらとした髪の一本一本がほどけていくさま。

ポケモンの時に触れたのとはまた違う感覚。

「あなたは目覚めて恋人が別人になっていたらどう思われるでしょうか……。」

くすぐったいのか、きゅうっとよりくっついてきた。

「あなたは強いですから、そんなに嘆かないかもしれませんね。」

その力にアブソルはクスクス笑う。

アブソルはこの少女が可愛くて仕方がない。

それは皆も同じなのだが、アブソルの場合は少し違う。

彼のような恋情でもなく、皆のような過剰な友愛でもなく、もちろん年上ということからくる母性でもなく。

「保護欲とでも言いますかねぇ……。」

ひたすら自分の庇護下に置きたいのだ。

大切な大切な宝物のように、自分の傍において包んでやりたい。

遊んで、じゃれて、もたれて眠らせて。

こんな風に。

「ん……?」

「おや、起こしてしまいましたか。」

思いのほか、楽しくて触り過ぎてしまったらしい。

彼女はうっすらと瞼を上げた。

その寝ぼけ眼も可愛いと見ている内に、アブソルはある音を聞きつけた。

まだ微かだが、聞き覚えのある足音。

規則的にして、暴走寸前の。

「ああ、彼ですね。」

やはり、自分と入れ替わっていたようだ。

「シュウ、おはよ……。」

「おはようございます、ハルカさん。」

挨拶してくるハルカに笑顔付きで挨拶を返す。

しかし、のんびりしている暇は無い。

「もうすぐ私がここに来るのでその準備を。」

彼女の両脇に手を差し込む。

抱き起こすとパチパチと瞬きをした。

「シュウ?」

「さあ、ハルカさん、目を閉じて。」

足音はかなり近くなっている。

疑問を顔に浮かべる彼女を無視して顔を近づけた。

「う、うん……。」

彼女は反射的に目を閉じる。

そこに――








「そうして、この大惨事に至る、と……。」

アブソルはベッドに引っ掛かっていたシーツを手に取る。

半分になったそれはすぐにふわりと舞った。

”アブソル、そんなことしたら埃が立つでしょ!”

「すみません、姉さん。」

急いでそれを床に敷く。

もうこのシーツは使い物にならない。

だったら、片付けに活用しよう。

アブソルはせっせと床に散らばった細かな破片をシーツの上に集めていく。

抱えなければならないほど大きな物はあらかたフライゴンにより窓の外に出されているので、次は掃除機で吸いきれない大きさのゴミを片付けなくてはいけないのだ。

”あ、それ、ぼくがやりたい。”

「バタフリーがですか?」

羽の動きでゴミが散るから、天井近くにいてほしいのだが……。

”まあ、見てなって。”

バタフリーの目が七色に光る。

次の瞬間には、床全体が青白い光に包まれた。

いや、床が光っているのではない、床のゴミ一つ一つが光を帯びているのだ。

それらがふわりと浮かび上がる。

広がったシーツに吸い込まれるように、木くず毛くずその他諸々は床から姿を消していった。

”はい、完了っと。”

バタフリーが降りてきて、パンパンになったシーツを風呂敷のように結ぶ。

”器用なものねぇ。”

姉さんが感心したように呟いた。

バタフリーがエヘンと胸を張る。

”こういうのは大得意。もっと褒めてくれてもいいよ。”

”助かったわ。ありがと、バタフリー。”

くるりと部屋を見渡して、姉さんが次の指示を出す。

”バタフリーのおかげで掃除機かけなくても良くなったから、今度は拭き掃除よ!床はもちろん、棚なんかも拭いて偶然秘密を発見するのよ!”

”おーっ!”

皆が声を合わせてそれに賛同した。

”ぼく、ちょっとバケツと雑巾取ってくるよ。”

バタフリーがひらひら羽ばたいて部屋を出ていく。

アブソルはそれを追いかけ廊下に出た。

「少しよろしいですか、バタフリー?」

”シュウさんにそんな丁寧な口調で話しかけられると照れちゃうねぇ。で、なに、アブソル?”

のんきな口調、ポケポケとした言葉。

表情が読めないので何を考えているのか今一つ分からないバタフリーは、その分話すことが長くて豊かだ。

つまりはおしゃべり。

「お聞きしたいことがあるんです。」

隣に追いついて、少し上を飛んでいるバタフリーを見上げる。

「あなたのエスパー技について。」

”ぼくの?”

ひらひら飛んだまま、首を傾げている。

”さっき説明した通り、サイコキネシスがぼくの得意技だけど?”

「その使い方についてお聞きしたいのです。」

先程、バタフリーが集めたゴミ。

「普通のエスパーと集め方が違ったでしょう?」

”ああ、あれ。”

うんうんと一人で頷いている。

”逆に質問するけど、アブソルは普通のエスパーのゴミの集め方ってどう思ってるのさ?”

バタフリーが前に回り込んできた。

”ぼく、話の分からない相手に一つ一つ説明する気ないからね。誰かに先に秘密を発見されたらたまったものじゃない。”

軽妙な口調の中にも焦りが混じっている。

相当熱心に掃除に取り組んでいるらしい。

アブソルは一つ頷く。

「普通のエスパーなら細かなゴミ一つ一つに力を働かせたりしません。周りの空気を動かし、一気にゴミを外へと放り出すでしょう。」

周囲の空気を動かすだけなら、その一点に集中すればいい。

シーツも飛ばされてしまうような強風を起こさないと片付かないため、ゴミを一か所に集めるのは無理だが、その方が余程簡単だ。

「そうしないと、莫大な量の力を消費してしまうから。」

しかし、バタフリーはそうしなかった。

さほど大きくないとはいえ、無数とも言える物に力を分散しては、維持するだけで相当な力を使う。

別に敢えてそうした理由が知りたいわけではない。

分かり切ってるし。

アブソルが知りたいのは――

「普通のエスパーが使う方法と、あなたの方法。それは力の比率で言えば、どのくらいの差がありますか?」

”ふっふっふー、ぼくの微調整テクニックの真価を突きとめるとは、アブソルも隅に置けないねぇ。”

バタフリーが自慢げに羽を揺らした。

”サイコキネシスの怖いところって動かせる物の大きさじゃないんだよねぇ。大きい物動かしたって、そんなの力学的なエネルギーに変換されちゃってるから、より大きな攻撃で防がれちゃうしさぁ。”

「あなたが大岩をフライゴンにぶつけても、フライゴンのはがねのつばさで砕かれてしまうようなものですか?」

”そうそう、悔しいけど、ぼく、真っ向勝負だとフライゴンに絶対勝てないし。”

彼は5人の中で随一を誇る怪力の持ち主。

さらにいつものおちゃらけた態度に似合わず、バトルでの頭の回転は速い。

単純な力と力のぶつかり合いで勝てる相手はいないだろう。

”まあ、フライゴンの強化のコンセプトは「戦闘型スーパーコンピューター」だから仕方ないんだけどさ。”

「……あまり、その言葉は耳にしたくありませんね。」

”じゃあ、最後に一つだけ。ぼくのコンセプトは「大規模な遠隔操作及び戦略構築」。”

バタフリーが言っているのは、人間達に無理やり強化されたときの基本方針だ。

胸のつかえが大きくなる。

「……それに何の関係があると言うのです?」

”大アリに決まってるじゃん。ぼくはエスパー技の細かな扱いに長けてるってこと。どこにどれくらい力を分散すればいいのかとかの計算得意。もちろん、隠し技はそれだけじゃないけどね。”

こちらが不機嫌な顔になっているのを分かった上で、ふっふっふーっと含み笑いをするバタフリー。

”アブソル、シュウさん達の前だとあんなに明るいのに、ぼく達相手だと本性出ちゃうねぇ。”

「余計なお世話です。」

”まあまあ。”

バタフリーがクルリと宙返りを見せた。

”話に付き合ってもらったお礼に、最初の質問の答えを教えてあげるよ。比率にして1対150って感じかな。”

「150……っ!?」

思わず絶句する。

”やっぱり、驚いてるシュウさんの顔って新鮮だねぇ。”

ふふふふふっとさらに含み笑いをするバタフリー。

”細かな動作は普通の技とは比べ物にならないくらい負担がかかるからねぇ。高レベルエスパーなら出来ないこともないだろうけど、一瞬で脳がパンクするんじゃない?”

「……あなたはどうして出来るんですか?」

”一度に多数の物にあらゆる動きをさせるのがぼくの得意技ー。それだけ色々されてるってことだけどねー。”

くるくる宙返りを繰り返しつつ、廊下の物置をサイコキネシスで開けた。

中からバタフリーの望む掃除用具が出てくる。

”これも全ては秘密のため!風で吹き飛ばすなんて勿体なくて出来るわけないじゃーん!”

ビシッとバタフリーが指さすと、バケツ達が廊下を飛んで行った。

”そんなわけで、ぼく行くから。水はアメモースにもらおーっと!”

それらを追いかけ、バタフリーもウキウキと飛んで行った。








「150……。」

まだショックが抜け切らない。

アブソルは廊下の壁にもたれ、ズルズルと座り込んだ。

「そんな芸当、他に出来る相手なんて限られてるじゃないですか……。」

アブソルが恐れているのは、この現状を作り出した相手――シュウと自分を入れ替えた――のが「組織」の者なのではないかという考えだった。

そんなことはあるはずがないと自分に言い聞かせてきた。

可愛い彼女で遊んで不安を紛らわせてきた。

いつもは冷静な彼を暴走させることで笑い飛ばしてきた。

それももう限界に近い。

自分達を戦いのために強化し、あの二人を連れ去ろうとした奴ら。

以前、搦め手から攻めてきたときには何とか退けたが、今度は真っ向から技を仕掛けてくるとは。

いや、真っ向というのは少し違うかもしれない。

姿を見せていないのだから。

だが、それだからこそ、正体が絞り込めてしまう。

「偶然、蒼海の王子が、たまたま森に旅行に来て、うっかり私達を入れ替えたなど有り得ますか……?」

有り得ない。

バタフリーは言った。

細かなエスパー技には相当な負担がかかると。

サイコキネシスとテレパシーの負担の違いなどは自分には分からない。

しかし、二人分の思考の入れ替え、そして記憶の読み取りがどれだけ高度な技なのかは想像に難くない。

天才なら出来るだろう。

水ポケモンを統べる王なら。

高レベルにして、生まれ持った才能を開花させたエスパーポケモンなら。

しかし、そんな偶然有り得ない。

考えられるのは――

「私達の他にも……。」

存在するのだ、強化された兵器が。

自分達と同じモノが。

何を意図しているのかは分からない。

何が目的で人格の入れ替えなどをしているのかは分からない。

だが、攻めてきている。

やっと平和になったと思ったのに、また――

「許さない……。」

拳を握り締める。

例え、自分達と同じモノだったとしても。

それが彼らの望む戦いではなかったとしても。

「あの子に、あの方に、危害を加えるのなら……。」

遊びは、終わりだ。




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コメント

No title

はじめまして。

つい最近レグルスさんの小説を読み始めた者です。
そしてすぐにレグルスさんのファンになっちゃいました(笑)

シュウハルの小説がものすごく好きです!
レグルスさんの小説が上手すぎて、感動しました!

これからも、執筆がんばってください。
応援してます!

ではでは、また覗きに来ます。(笑)
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