スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

新緑の森のダンジョン 春の嵐 4-2

今日は雪が降って寒かったです。
早く春にならないかなー。
そんなわけで、春シリーズ4-2スタートです!









”さて、と……。”

アブソルが立ちあがる。

「アブソル、約束を破るつもりかい?」

残る予定だったアブソルが今にも行動を開始しようとしている。

あまり感心しない。

”まさか。”

しかし、アブソルは明確に否定してみせた。

”シュウさん、ハルカさん、少し起き上がってください。”

「……まさか、ぼく達を連れて逃げるとか?」

”そんなことをしたら、皆に嫉妬で殺されてしまいます。ただ、私達が川の字で寝るにはこのベッドは狭いかと思いまして。”

アブソルはベッドの上を数歩移動して枕元にやってきた。

そこにあった枕をどけて、自分が枕のように横たわる。

”さあ、ハルカさん、どうぞ。あなたのお気に入りのアブソル枕ですよー。”

その言葉に、今まで押し黙っていたハルカがピクリと反応した。

そろそろと顔を上げ、アブソルを視界に入れる。

「そっち行ってもいい……?」

”ええ、もちろん。”

ハルカが離れる。

アブソルの傍まで行くと、頭だけでなく、体ごと白い胴体に寄りかかっていた。

”ふふっ、可愛いですねぇ。やはり、さらって逃げてしまいましょうか。”

「……全く。」

シュウはため息をつく。

ハルカの隣、アブソルの肩あたりに寄りかかると、アブソルは目をパチクリさせていた。

「何だい、その顔は。」

”……嫉妬なさって、ハルカさんを引き剥がすものだと思っていました。”

分かっていて嫉妬を煽るあたり、やはり悪タイプだ。

「でも、今回は違うだろう?」

シュウは再びくっついてくるハルカの頭を撫でてやりながら続ける。

「何とかハルカを安心させようとしている。ハルカは昔から君のその柔らかな毛が好きだった。」

研究所にいた頃。

一時の間だけ、まだエネコだったハルカと5人は一緒に過ごしていた。

それは本当に一時だったけれど。

「ハルカがよく君にくっついているからどうしてなんだろうと思っていたけど、柔らかくて温かだったからだね。」

”あなたのその手の次に、ね。”

アブソルが思い出したように頷く。

”ですが、本当に柔らかで温かだったのはハルカさんでした。私達はこの子が本当に大好きだったんですよ。”

「ああ、それはよく知っているよ。」

すやすやと早くも寝息を立て始めたハルカの背を撫でる。

「あれほどダメだと言っていたのに、君達はよく抜け出してハルカを見に来ていた。」

処分命令が下された彼ら5人。

でも、何とか生きてほしかった。

”かくまっていただいたことには感謝していますが、それとこれとは別ですから。”

アブソルがクスクス笑いながら言う。

”ですが、あなたは一つ誤解しています。この子を見に来ていた最大の理由、それはあなたの笑顔が見られるから。”

「……ぼくの?」

何故、ぼくなんかの?

”あなたは私達に憎まれていると思っていたでしょう?”

ぐっとつまる。

その通りだった。

研究材料として彼らを変えてしまったのはぼく。

自然の生命として生きることも許されないくらいに。

憎まれるのは当然だった。

”まあ、怒りを感じたことなど一度も無いと言えば嘘になってしまうでしょうが。”

だって、痛いものは痛いですしねぇと、アブソルは事もなげに言っている。

”でも、あなただって私達を憎んだでしょう?”

「なっ!?」

思わず絶句する。

「そんなことは――。」

”このポケモン達が目の前から消えれば自分は苦しまなくて済む。もう痛くない。そう考えたことはありませんか?”

「あ――。」

その言葉は――

”あるでしょう?だって、ハルカさんを置いて逃げたのはそれが理由だったんですから。”

シュウは打ちのめされる。

そう考えた。

そう考えたからこそ、実験に必要なくなったポケモン達をかくまった。

少しでも罪滅ぼしになればと。

自分こそが苦しみを与えているのに、そう思ってしまった罪を少しでも償えればと。

「ごめ……アブソル、ごめん……。」

目から涙が溢れ出す。

思い知らされた。

自分は酷く汚れた人間なのだと。

それを忘れてのうのうと生きることなど許されないと。

アブソルの赤い瞳がこちらを見つめる。

”あのぅ……別に責めているわけでは……。”

「……え?」

”というか、今、ハルカさんが起きたら本気で嫌われるので、泣くのやめていただけたら嬉しいなーと。”

目の前の赤は焦っていた、本気で。

”早く涙を拭いてください。早く!”

せかされたので、シャツの袖で目元を拭う。

”うう、すみません、話す順序を間違えました……。”

「いや、ぼくの方こそ、何と言うか……ごめんなさい。」

どうして、ここで謝り合ってるんだろう。

”あのですね、シュウさんは憎んでる相手の前で笑うことって出来ますか?”

「……唐突な質問だね。」

だが、答えることは出来る。

「無理、なんじゃないかな。」

事実、ハルカを利用しようとしたあの男の前で笑うことなど出来そうもない。

”だから、私達の前では笑ってくれなかったでしょう?”

「……君達は、憎んでる相手が目の前で笑っているのを見て楽しいのかい?」

アブソル達に見つめられていると、憎まれていることが辛くて、泣きそうになるくらい辛くて。

”ああ、やっぱり、話す順序を間違えました……。どうして、現在に至るまでの道筋なんてどうでもいいこと先に話してるんですか、私は……。”

アブソルがガックリとうなだれた。

”シュウさん、ポケモンと人間は違うんですよ。私達はあなたを憎んでなどいない。”

「え……。」

でも、さっきは……。

”私達5人というよりは、ポケモン全体に言えることなのですが、我々は生命あることを重視します。つまりは生きていることを。”

「……。」

”ですから、生命を救ってくださったシュウさんに感謝こそすれ、憎んだりなどしません。”

「でも……憎んでるって……。」

”あなただって望んでしたことではありませんし、それに私達の感じているのは憎しみより怒りに近いものでしたし。”

「でも……。」

”憎しみなど欠片もありません。私達はあなたが好きです。とても好きなんです。”

「え……。」

ここでアブソルが一旦言葉を切った。

優しい眼差しでハルカを見やる。

”私達は命の恩人であるあなたに感謝しています。しかし、あなたはいつも私達を見て苦しそうな顔をする。”

すうすうと眠っているその顔はエネコとは随分異なるけれど、見ていると自然と笑顔になれるのはあの頃のままで。

”だから、この子が好きだった。あなたを笑顔にしてくれるこの子が大好きだった。本当は優しいあなたを真っ直ぐ見つめているこの子を愛していた。”

そうして、その優しさが向けられる。

”私達はあなたの笑顔を何よりも大切に思っています。他の何よりも。”

アブソルの眼差しが真剣な色を帯びた。

”だからこそ、あなたとこの子を苦しめる存在は許さない。”

「え……。」

赤い瞳は刃のようだった。

”私の命を救ってくださったあなたと、あなたを救ってくれたこの子を傷つける者は許さない。”

その刃がギラリと光っている。

”あなたの存在こそが私達を存在させた。あなたの存在がこの子在ってこそというのなら、私の命を懸けてもこの子を守り抜く。”

「君は……。」

喉がカラカラに乾いていた。

「ポケモンは生きていることを重視すると言った……。なのに、命を懸けて、とも言う……。ぼくなんかが生きていることと同じくらい大切なのか……?」

”……生きていることと死んでいないことは同じではないと姉さんが言っていました。”

赤い刃を瞼の鞘に収め、アブソルは言う。

”ポケモン達は死んでいないことを重視します。しかし、私はもうそれでは満足できなくなってしまった。あなたに救われた頃はそうではなかったのに。”

「なら、君は……。」

”今の私は生きたいのです。あなたと、この子と、皆と一緒に。誰が欠けてもいけない。私は生きていきたいのです。”

手が震える。

「ぼくは……君のその思いに応えられるだろうか……。」

”ええ、もちろんです。命に代えることと、命を懸けることは同じではないのだから。命を懸けるからこそ生きていけるのだから。”

ここでアブソルが目を開ける。

そこにはいつものアブソルがいた。

”あなたはいつも通り、大好きなハルカさんを奪った私達に嫉妬して、壮絶なバトルの末、ハルカさんを奪い返してイチャついてくれていればいいんですよ。”

「……何か嫌ないつも通りなんだけど。」

”実は私、あなたの笑顔も大好きなんですけど、それ以上に嫉妬に狂って暴走するあなたが好きかもしれません。”

「真面目な顔で他人をおもちゃにしないでくれ……。」

”それから、ハルカさんの笑顔も好きなんですけど、それ以上に恥じらう表情が好きです。”

「ハルカのその顔を見ていいのはぼくだけだ。」

”おや、本音が。”

じっと見つめ合う。

二人同時に吹き出した。

”ああ、やはり、私はあなた方が大好きです。”

「ぼくもだよ。君達がいてくれて、君と話せて、本当に良かった。」

アブソルが軽く頭を振る。

”さあ、そろそろ眠りましょう。姉さんが様子を見に来たりでもしたら怒られてしまいます。”

「ああ、ロゼリアはあんなにヒステリックな性格だったのか。」

シュウはアブソルにもたれ直しながらクスクス笑う。

”意外なのは姉さんだけではありませんよ。”

「ああ、バタフリーが思ったよりおしゃべりで驚いたよ。」

”ええ、それに、フライゴンなんて――。”








家を見下ろす大木に影があった。

――今、行く。

影が枝を蹴る。

森にガラスの割れる高い音が響き渡った。







5-1に続く

スポンサーサイト
コメント

No title

ども^^mariaです✿

早く続きがみたいです!

本当に面白いです!

頑張ってください☆彡
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。