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新緑の森のダンジョン 春の嵐 10-3

春シリーズ10-3です。
ではスタート!


バシャーモが長い説明を終え、口を閉じる。

「……。」

シュウはアゲハントの説明とは違う意味で話に呑まれていた。

”つまり、私とシュウさんを入れ替えたのは、ハルカさんを探すためだったと。”

一人冷静なアブソルが呟く。

”そう言えば、私が元の体に戻る直前に考えたのはエネコのことでしたからね。その時にハッキングされたわけですか。”

いや、と首を振って。

”エネコのことを考えたからこそ、元に戻ったと言うべきか。情報さえ得られれば、意識を入れ替え続ける意味は薄れますからね。負荷が大きいのなら尚更。”

ふむ、と納得したように鼻を鳴らして。

”それに、考えてみれば、やたらとシュウさんに思考を先取りされていたような気がします。そのせいでしたか。”

やがて、コクリと頷いた。

”なるほど、辻褄は合います。だからこそ、分からないことも増えましたが。”

”何だ?”

”何故、私達にそのような話をするのです?先程まで戦っていた相手に、自らの手の内を明かすのは得策ではないように思いますが。”

その口調からはアブソルがまだ完全には警戒を解いていないのが伺える。

しかし、バシャーモは浮かんで当然の疑問を鼻で笑い飛ばした。

”分かっていても防ぎようが無いだろう?”

”いえ、それはそうなんですが、相手にどんな些細な事柄であれ、情報を与えるのはあまり良い手とは言えないのではないかと……。”

”訊いてきたくせによく言う。”

”確かに尋ねたのは私ですし、答えてもらいたいとも思っていましたが、ここまでアッサリ種明かしされるとは思ってなかったので……。”

アブソルがしゃべりながら、しきりに首をひねっている。

平然としているバシャーモを見て、次にバシャーモにもたれかかってグッタリしているアゲハントに視線を移し、そしてまた首を傾げた。

「アブソル。」

シュウはアブソルの疑問に答えるべく口を開く。

”はい。”

「バシャーモは相手の情報を重視した戦い方をしていないだけだよ。君達と違って。」

”……はい?”

「だから、相手に自分達の情報を渡すことに対して全く危機感を持たない。何故なら、自分がそんな情報を必要とする戦い方をしないから。」

”ええと……。”

アブソルは眉根を寄せてうんうん唸っている。

聡明なアブソルにしては珍しく理解が遅い。

いや、だからこそか。

「君というより、君達に共通することだけど、君達の戦い方にはクセがある。相手の特徴、その戦闘パターン、そして自らの戦闘能力と現在取り得る手段を分析して最善の一手を瞬時に導き出す。言うなれば、そう――。」

シュウは一瞬言葉を切る。

「――コンピューターのように。」

はっとアブソルが目を見開く。

「典型はアメモース。全ての要素を複合的に分析し、最も効果的かつ合理的な戦法を編み出す。実戦的なフライゴンでもその基本は同じだ。そして、そんな君達は戦闘において自らの情報が相手に漏れることを何より恐れる。何故なら、そのデータを分析されて自分の行動を予測されてしまったら勝てる可能性が低くなってしまうから。」

そんな戦い方しか出来なくしてしまったのは自分なのだと胸のどこかがチクリと痛くなる。

それでもアブソルに向き直り、シュウは言葉を続ける。

「バシャーモの戦い方はまさに野生そのものだった。一つ一つの攻撃は別個のものに思えるけど、その実、全てが繋がっている。攻撃を防がれてもそれを次の動作に繋げ、予測不能なことが起きても流れを繋げ続ける。途切れることのない攻撃、それはまさに一本の線。」

”……。”

黙り込んでいるアブソルの顔を見つめる。

その顔には「理屈は分かりますけど、それって私達もしてますよね?どこがどう違うのかサッパリ分からないんですけど。」と不満たらたらの筆跡でバッチリ書いてあった。

眉間に深いしわを刻んで考え込んでいる。

「そうだね……君には特に理解しがたいだろうね……。」

聡明故に、どんな相手にも対処できる。

しかも、相手の情報を得れば必ず勝ててしまう。

そんなアブソルからすれば、情報を必要としない戦い方は理解できないだろう。

今もアブソルはバシャーモの態度に感じた違和感を解消できていない。

「例えて言うなら……そうだね、君達の戦い方は点だ。一つ一つの動作が最善の一手となるよう常に考え続けている。」

シュウは落ちていた石ころをいくつか拾い、それを直線に並べる。

”……はい。”

アブソルがますます眉間のしわを深くする。

さらに、「点と点の繋がりが線ですよね。じゃあ、ますます違いなんて無いじゃありませんか。」と顔に付け加えられた。

シュウは違いを強調するように一つ一つの言葉をはっきりと言う。

「それに対して、バシャーモの戦い方は線。普通の戦闘だと違いが分かりづらいけど、窮地に立たされるとその真価を発揮する。」

シュウの脳裏に、戦闘中にバシャーモが倒れかけていた光景が蘇る。

倒れた所に落ちていた小石を弾き飛ばし、アブソルの回避を誘って、ピンチをチャンスに変えた。

シュウは並べた石に新たな石を加える。

「君達は何か予想外のことがあると、こう……。」

直線になっていた石の筋から直角に石を並べ替える。

「それが最善の策だと思うと、すぐに切り替える。もちろん、間違いじゃないんだけど。」

対して……と、今度は指で岩の上に指を走らせる。

真っ直ぐな線を描きながら、

「バシャーモは何かあっても簡単に変更しないんだ。」

少しだけ線を曲げる。

「言うなれば、自分で描いた直線を辿っている。軌道を変更するんじゃなくて修正しようとするんだ。」

その曲線をすぐに元の直線が辿るはずのルートに戻した。

これこそがアブソルとバシャーモの違い。

これがあったからこそ、シュウはバシャーモの正体が組織のポケモンではないと気付いたのだ。

フライゴンに軸足を払われて倒れかかったバシャーモ、それを攻撃しようとするアブソル。

もし、立場が逆だったら、アブソルは迷うことなく自らの動作を防御に切り替えただろう。

防御しないとダメージを受けるから。

ダメージを受けると戦えなくなるから。

バシャーモは違った。

防御よりも、偶然手元に落ちていた小石を使い、攻撃を成功させた。

相手に当たるかどうかも分からないのに。

相手が避けるなんて、そんな隙の出来ることを選択しないかもしれないのに。

避けたとしても、その隙に自分が体勢を立て直して攻撃に移れるかなんて分からないのに。

失敗して戦えなくなったら、せっかく見つけた大切なものをまた失うかもしれないのに。

アブソルなら、そんな成功率の低い賭けには乗らない。

だが、バシャーモはそれに賭け、成功させた。

「これが君達の違い。相手を知って点を打つ君達と、相手が何であれ自分の引いた線の上を走ろうとするバシャーモ。単純に戦闘スタイルが違うだけだけど、それが原因で情報に対する扱いが互いに理解できない。」

説明を終え、シュウは改めてアブソルを見つめる。

そこには、眉間のしわを無くし、その代わりに瞳を暗い色に染めた――え?

”つまり、私は弱かったのですね……。”

「えっ!?」

”戦う相手に関する知識を持っていないとまともに戦えない。知らない相手には不利を強いられる。私の強さはそんなものでしたか……。”

「いや、ただ戦闘スタイルの違いってだけで、どちらが強いか弱いかというわけじゃなくて……。」

”私の視野の狭さがあなたに酷いダメージを負わせた。得られた情報から敵は単数、しかもエスパーポケモンだと思い込み、あなたを危険に巻き込んだ。こんなザマであなたを守るなどと、どの口がほざいたんでしょうね……。”

まずい。落ち込んでいる。

アブソルは一連の戦いが常に不利だったことに責任を感じているのだ。

”相手が組織のポケモンではなかったから助かったようなものの……。組織が新たな計画を立て、あなた方に迫ってきたとき、今度こそ私は……。”

「そんなことないよ、アブソル。」

何の気負いも無い明るい声がした。

「わたし知ってるかも。アブソルがとっても強いこと。それにとっても優しいことも。」

”ハルカさん……。”

ハルカがアブソルと視線を合わせ微笑みかけていた。

「わたしが泣いてたから、アブソルは危険だってどこかで分かってたけど、シュウの傍にいていいって言ってくれたんだよね。そうやって、シュウとわたしを同時に守ろうとしてくれた。」

アブソルの右前脚を両手で取る。

「アブソルがわたしの身の安全を考えてたら、アブソルはわたしを近づけさせなかったと思う。だって、それが一番いい方法だもの。でも違う。アブソルはわたしの”全部”を守るのが一番いいって思ってくれた。考えたんじゃない、思ってくれたの。」

その純白の毛なみに頬を当てた。

「結果を見れば、最善の一手じゃないけど、わたしにとっては最高の一手だった。そうやって、思ったことを思ったままに行動できるアブソルのこと、わたしは強いと思う。」

ニコリと笑いかける。

「ありがとう、アブソル。守ってくれて。」

”ハルカさん……!”

ジーンときているらしいアブソルは目を潤ませている。

類い稀なる演算能力で常に最善の一手を打つアブソル。

自らの戦いを貫くことで勝利を求め続けるバシャーモ。

どちらの戦い方にも利点はあるし、どちらの戦い方も間違っていない。

ただ、どちらも違わないのは。

「優しいアブソル。わたしはあなたが大好きよ。」

ハルカのことを想い続けるその姿勢。

……何やら周りで、”きいいいっ!どさくさ紛れに何あの子のハートゲットしてるのよ!”とか、”アブソルばっかりいい思いしてずるいッスー!”とか、感動ぶち壊しの叫びが発せられているのだが。

早く話を進めないといけないような気がする。

「バシャーモ、ぼくからもいくつか聞きたいことがある。アブソル、通訳してくれるかい?」

赤い瞳がキッとこちらを向く。

その眼光は、”何でこのタイミングで邪魔しやがってくださいますか、あともう少しでキスしてもらえたかもしれないのに!”と、言葉よりも雄弁に語っていた。

もちろん、気にしない。

「確かに、ここにいるハルカはエネコだった。でも、今は人間だ。君達のエネコを攫った人間と同じ。」

シュウの言葉をしぶしぶアブソルが通訳すると、バシャーモは短く答えた。

”何が言いたい。”

「それを君達は受け入れられるのか?君達を覚えてもいない、人間になったエネコを。」

”そんなことか。”

フンと鼻で笑われる。

”時の流れで姿の変わらぬ者などいない。それが成長なのか、進化なのか、全く別のものなのかは関係なく。何より、エネコと共に在りたいと思った我々の過去とその感情を否定することは誰にも出来ん。エネコにもな。”

「……文句のつけようの無い全肯定だね。」

これもエネコへの強い気持ちがもらたしたものなのだろう。

「それは今でも変わらない?」

”当然だ。”

「なら、提案がある。」

シュウは姿勢を正す。

「……ぼく達と共闘しないか?」

”何ですってぇぇぇぇぇっ!?”

……この通訳は通訳に向いていない。

鼓膜を破らんばかりの叫びに、シュウはたまらず耳を押さえた。



春シリーズ11に続く
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