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新緑の森のダンジョン 春の嵐 11

春シリーズ11話です。
ではどうぞ!





”何考えてるのよ!あなた正気!?”

”さすがのぼくもそれにはビックリだよー。”

”どこをどうやったらそんな結論になるんスか!オイラ、もう分かんないッス!”

”シュウさんの思考回路、謎が多すぎ。”

周りを囲むギャラリーが大騒ぎしている。

「アブソル、通訳。」

固まっているアブソルに告げると、アブソルはぎしぎし首を動かして、バシャーモに向き直った。

”愚問だな。”

”ですよね。”

「こら、アブソルまで同意するな。」

腕組みと厳しい眼差しでこちらの提案を一刀の元に拒絶するバシャーモ。

「愚問だと思う理由は?」

”貴様らはこの子を渡すつもりなど全く無いのだろう?そこのアブソルの言葉は貴様の仲間にも共通することのようだ。”

「渡す渡さないの話じゃない。そもそも、その発言は、君達をぼくらの敵だと思い込んでいたときのもの。本当の、ね。」

”本当の?”

バシャーモが僅かに瞳を瞬かせる。

シュウは目を閉じて小さな呼吸を繰り返しているアゲハントに目を向けた。

「アゲハント、教えてほしい。この森にハルカがいるという確かな手がかりを持っていた人間、その人間の感情を。」

”……。”

うっすらと目を開け、その目でバシャーモを見つめる。

バシャーモが優しい手つきで仲間を助け起こした。

シュウに向き直り、アゲハントは思い出すように告げる。

”……怒り、悔しさ、憎しみ。それらがとても強く発せられていた。一方的で繋がりと呼べるようなものじゃなかったけど、それでもその中からエネコの精神波を感知するには十分すぎるほど強い感情だった。”

「……。」

シュウは予感が確信に変わるのを感じる。

「その人間は男じゃなかったかい?紫色の髪を持つ。」

瞬間、アブソルが目を見開き、殺気に近い怒気を放った。

それに触れ、瞬時にバシャーモが戦闘態勢に戻る。

”……バシャーモ。”

ポンポンと小さな手でバシャーモの膝を叩き、落ち着かせてからアゲハントは言葉を続けた。

”そうよ……。怖いくらいの憎しみだった。いつエネコが危険な目に遭ってもおかしくないくらいの……。だから、急いでこの森に来た。”

「でも、エネコは見つからず、君達の焦りは大きくなる一方だった。だから、エネコの精神波を覆い隠すモノを排除しようとした。」

”そう……。でも、今なら分かる。貴方達の心に触れ、貴方と言葉を交わした今なら。それはエネコを守ろうとする意志のバリアー。”

真正面からシュウを見つめてくるアゲハント。

その青く澄んだ瞳をじっと見つめ返しながら、シュウは頭を下げる。

「その男は以前にもこの森を攻めてきた。そして、またやって来るかもしれない。だから、一緒にハルカを守ってほしい。その男の陰謀から、ありとあらゆる危険から、ぼく達と一緒に。」

”……。”

アゲハントが押し黙る。

会話を継ぐように、バシャーモが低い声を出す。

”貴様らと共闘せずとも、我々だけでエネコを守り抜く自信はある。故郷へエネコを連れ帰り、我らの楽園をもう一度創り出すこともな。”

”それは危険極まりない選択です。あの男の執念深さを甘く見てはいけない。見つかる可能性はあります。”

”下らん。”

バシャーモはアブソルの言葉を一蹴する。

”ならば、何故、その男はエネコを憎んでいる?エネコと貴様らとのやり取りを全て聞き取れたわけではないが、この子が幼き頃と変わらず優しい子だということは分かる。ならば、何故、こんな優しい子が恨まれる?貴様らがその原因を作ったのではないか?”

「……。」

黙り込んだシュウの表情を読んで、バシャーモは吐き捨てる。

”正解だな。貴様らだけが戦って、貴様らだけがやられれば良い。この子は我らが守る。”

「……確かに、全ての責任はぼくにある。ずっとハルカを苦しめ、今でも危険に晒しているのはぼくだ。」

アブソルが苦しげに顔を歪めて口をつぐむ。

「アブソル、伝えてくれ。」

”……。”

「アブソル。」

もう一度強く呼ぶと、アブソルは弱々しく首を横に振った。

”……あなたがそう思っていても、私は決してそうは思いません。その言葉を私の口から言うことは出来ない……!”

「……アゲハント。」

アゲハントは無言のまま、シュウの心を透かすような目で見つめる。

「それでも、ぼくはハルカと一緒にいたい。また引き離されるのは耐えられない。だから、ハルカを連れていかないでほしい。」

”……貴方がエネコを守ろうとしているのは事実。でも、私はまだ完全に貴方を信じたわけじゃない。”

宙に視線を向けながら、

”貴方の守る意志のバリアーは言い換えれば拒絶の意志。エネコを必死で探す私達すら拒絶する心の壁。その意志は変わらずそこにある。”

そこに壁があるかのように言い切った。

”人間さん、貴方はエネコを取り戻そうとする私達を信用できるの?いつか自分から大切な者を奪っていくかもしれない相手を拒絶しないでいられるの?”

その壁たるシュウをじっと見つめる。

「……どうか。」

シュウは誓うように胸の前で拳を握りしめる。

「どうか信じてほしい。君達と同じ者を愛する者として、どうかぼくの言葉を信じてほしい。ハルカを愛している君達をぼくは信じる。だから、ぼくを信じてほしい。」

”……。”

その言葉を噛みしめるように、アゲハントは瞳を閉じる。

”……人間さんはずるいのね。”

「え……。」

”エネコを愛しているなんて言われたら、それを引き離すなんてしづらくなるわ……。離れるのは悲しいから。”

ふわりと羽を広げ、アゲハントは目の前にやってくる。

”分かりました。人間さん、あなたの言葉を信じましょう。あなたのエネコへの愛を信じることにします。”

「アゲハント!」

シュウは感動してアゲハントの小さな手を両手で取る。

”ただ……。”

アゲハントが顔を横に向ける。

その方向を見ると、組んだ腕からゴウゴウと炎を勢いよく噴き出しているバシャーモの姿。

顔には「大・反・対!」とでかでかと書かれている。

そして、同じく「こんな連中信用できません!」と目で訴えてくるアブソル。

「……えっと、仲良くしないかい?」

”できるかぁっ!”

揃って突っ込みを入れるアブソルとバシャーモ。

ギャラリーからは「そーだそーだ!」と声援が入る。

”アゲハント、こんな危険な奴らの傍にエネコを置いていたらいつ取り返しのつかないことになるか!考え直せ!”

”それはこっちのセリフです!油断したところでハルカさんを攫われたらたまったものではありません!”

ギッと睨み合う二人。

結構仲良しに見える。

”そんなわけないでしょう!”

アブソルに思考を読まれてしまった。

「……だったら、こうしよう。」

アゲハントに向き直り、

「君達の気が済むまで、ぼくの精神をこのまま人質に差し出そう。いつでも君が攻撃できるように。」

”正気ですかぁぁぁぁぁっ!?”

アブソルが額をぶつけんばかりにして顔を突きつけてくる。

”覚悟にも程ってものがあるでしょう!?ハルカさんが泣いていたのを忘れたんですか!?”

「彼女らを裏切らなければいい。それだけだ。」

”そういう問題じゃありません!!”

「じゃあ、どういう問題なんだい?」

”それは……ああもう!”

アブソルはアゲハントを見据える。

”シュウさんだけを危険に晒すわけにはいきません!私もこのままで結構です!人質は一人より二人の方がいいでしょう!”

人質、避けたい事この上ない立場だが、考えようによっては僅かだが光明が見出せる。

今の状態を続けるということは、再び敵になるかもしれないアゲハントに心を読まれ続けるということだが、それはアゲハントにかかる負担が大きいということを意味する。

アゲハントが消耗していれば、戦力になるのはバシャーモだけ。

アメモース曰く、今の自分は通常の10%未満の実力しか出せていない。

なら、身体を休めていれば、その分だけ相対的に戦力差は縮まる。

さらに、回復している間に先ほど見たバシャーモの戦闘パターンを詳しく分析していけば、向こうが行動を起こしたときに対処もしやすくなる。

だったら、人質がいるから大丈夫だと油断させておいて、戦闘パターンだけでなく通常時の行動パターンに思考パターンなどあらゆるデータを収集、解析して――。

「アブソル、物騒なことを考えるのはやめてくれないか。」

他人の思考をジャックする勢いでアブソルの悪だくみ――彼女にとっては正当防衛以外の何物でも無いだろうが――が流れ込んでくる。

”相手がハルカさんを攫おうとしたときに備えているだけです。私から何かを仕掛ける気はありません。”

かなり癪だが、こちらから攻撃などしてしまったら、それこそハルカを泣かせることになってしまう。

そう、あくまで備えるだけ。

ただ、備えるなら完璧に。

ハルカを攫う気配でも見せようものなら、その瞬間返り討ちにする勢いで。

”人質か、それはいい考えだな。”

一人でコクコク頷いているアブソルの考えを分かっているのかいないのか、バシャーモは平然と言う。

”だがアゲハント、お前の負担が続くことは避けたい。大丈夫か?”

”ええ……。精神を入れ替えてるわけじゃないし、回復さえすれば、私と人間さんとアブソルさんの心を繋げておくだけならそれほど負担にはならないわ。でも、一度信じた相手を人質にするなんて……。”

”お人好しめ。こんな連中に付き合ってやるのなら、それくらいは必要だ。”

”付き合ってくれなんて、私達は頼んでないでしょおおおぉぉぉぉっ!!”

とうとう我慢できなくなったロゼリアがずんずん近づいてきた。

”何でこんな奴らと共闘しなくちゃいけないのよ!今回は後手に回ったけど、組織相手に私達が遅れを取るわけないわ!”

「ロゼリア、そんな油断が危機を招くんだ。」

”油断じゃないわ、事実よ!”

「今は事実でもそれが続くとは限らない。何をしてくるか分からない相手なんだから。」

”ああ、もう埒が明かない!”

ロゼリアがバッと片手の薔薇を振って皆を呼び寄せる。

近づいてはいけないという脅迫などお構いなしらしい。

”多数決取るわよ!共闘に反対のひと、挙手!”

ロゼリアが勢いよく手を上げる。

フライゴンが手を、アメモースが触覚を高々と上げ――

”バタフリー!何で反対しないのよ!”

平然と手を下ろしたままのバタフリーにロゼリアが食ってかかっていた。

”だって、バシャーモとアゲハント強いじゃん。努力と才能と意志の力で強くなるって言う話、嘘だと思ってたけどホントにあるもんなんだねぇ。”

”感心してんじゃないの!”

”アメモースもそう思うよね?”

いきり立つロゼリアを無視してバタフリーが親友の虫ポケモンに視線を向ける。

”肯定。僅かに危険性が有用性を上回ったため、反対に票を投じる。しかし、バシャーモとアゲハントの強さは本物。しかも、アメモース達と戦い方が違うため、戦略に幅が出来る。戦力倍増は間違いなし。”

”あなた、どっちの味方よ!”

ロゼリアは同じ反対のアメモースにまで怒りをぶつけている。

”はっ、そうよ!一番重要な人の意見聞いてないじゃない!この子の意志が一番大事なのよ!というわけで、どれだけ賛成が多くても、この子の意見採用ね!で、どうなの!?”

議論の中心でありながら、今まで静かに皆の話を聞いていたハルカ。

そのハルカに向かって、ロゼリアが答えを迫る。

「えっと……賛成。」

これがバシャーモ達との共闘が決定した瞬間だった。

ロゼリアの悲鳴と共に。




春シリーズ12話に続く
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