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湯たんぽ

寒い。
寒すぎる。
そんなときは湯たんぽ!
というわけでどうぞー。




「はぁ……。」

毛が長くてふわふわのカーペットの上で、ハルカは何度目か分からないため息をついた。

ペタンと座り込むその後ろには恋人の姿。

でも、実際にその姿が見えるわけではない。

密着という言葉も裸足で逃げ出すくらいの密着ぶり。

首に回された腕は柔らかいのだけど断固たる強さを持ち。

背中全体に感じるのはいつの間にか自分よりも大きくなって、さらに悔しいことに力も強くなってしまった体の生み出す熱で。

かろうじて見えるのは、体の両脇に立てられた膝だけ。

ハルカは恋人に後ろから抱きしめられていた。

「……シュウ。」

「何だい?」

彼が声を出す度に、首筋に温かい吐息がかかって思わず震えてしまう。

それを分かっていてしているのだろう、彼はさらに腕に力を込めてきた。

「今日は寒いね、ハルカ。」

「……それはシュウだけでしょ。この部屋だって暖房が効いてるじゃない。」

「君だって震えてるじゃないか。」

「それはシュウのせいでしょ!」

大声を出しても、この憎たらしい恋人は全く意に介した様子を見せない。

それは、さらに引き寄せられたことによって増した温もりが証明している。

「ほら、大人しくして。動くと空気が入るだろう。」

「だから、どうして、わたしがシュウを温めてあげないといけないのよ!わたしだって座ってないでやりたいこといっぱいあるんだから!」

手足を動かして抵抗しようにも、彼はそれすらも許してくれない。

両膝を狭めて、さらに檻を頑丈にしてきた。

小さく洩らされる忍び笑いが彼の機嫌の良さを証明している。

逆に、こちらの機嫌は急降下だ。

「……テレビでサオリさんの出てるコンテストの中継見たいのに。」

「はい、リモコン。」

「……喉乾いた。」

「そこのテーブルに用意してあるだろう?」

確かに、すぐ傍に小さなテーブルが用意してある。

その上にはジュースだけでなくお菓子も置かれているから、おなかが空いたと言っても放してもらえないだろう。

「……庭のお手入れしたい。」

「外は雪だよ。」

「……お掃除したい。」

「朝したよ。」

「……ハーリーさんに電話したい。」

「絶対ダメ。」

放してくれない。

だんだん腹が立ってきた。

シュウに抱きしめられているのが嫌なわけではない。

ただ、こちらの意思を分かっていて無視する彼の態度が気に入らないだけだ。

それは分かっているのだけど。

「放してって言ってるじゃない!」

腕を力いっぱい突っ張って、彼の体から離れようと試みる。

彼の膝に手をかけてうんうん言っていると、彼がまた笑う気配がした。

「いいよ。」

パッと手を離される。

突然、自由の身になったハルカは勢いあまって前にのめり込んだ。

ふかふかのカーペットのおかげで痛くはないのだけど。

「何するのよ!」

「君が離せって言ったんだろう?」

彼は全く反省した様子を見せない。

「……っ!」

腹が立つ。

腹が立つけど反論できない。

ハルカは乱暴にテレビのリモコンを手に取った。







……なんか、寒い。

ハルカは無意識のうちに自分の腕を抱きしめていた。

テレビにはコンテストのファイナルが映し出されている。

でも、全く集中できない。

サオリさんのピジョットが白熱したバトルを見せているのに。

落ち着かない。

暖房がついているはずなのに。

薄着ではないのに。

すうすうする。

何だろう、これは。

まさか、彼が暖房の温度を下げたとか。

いやいや、暖房のリモコンは彼の手の届かないところにある。

それに……。

チラリと彼の方を覗き見る。

彼はハルカを抱きしめていた時と全く同じ場所に腰をおろしたままだった。

リラックスした表情でサオリさんとピジョットを見ている。

……こっちはこんなに寒いのに。

またまた腹が立ってきた。

彼だけずるい。

どうして、彼は何でも思い通りにしてるのに、自分はそうじゃないのだ。

人を湯たんぽのように抱きしめて暖を取り。

湯たんぽが無いなら無いで平気な顔。

彼の体温に慣らされた自分はこんなに温かい部屋でも寒いというのに。

不公平だ。

「シュウ。」

「何だい?」

「寒い。」

だったら、自分も思い通りにやってやる。

ハルカは彼の手を思いっきり引き寄せた。

これは予想外だったらしく、バランスを崩した彼の胸に体ごとぶつかる。

胸に耳を当てるとドキドキといつもより少し早い鼓動が聞こえてきた。

ああ、彼を驚かせることができたのだと少し嬉しくなる。

「寒い。」

ハルカはもう一度繰り返す。

本当は、もうこれっぽっちも寒くなかったのだけど。

ほっとする空間。

彼女だけの湯たんぽ。

「シュウのせいよ。だから、あっためて。」

「……やれやれ。」

一瞬沈黙した彼は、すぐに腕に力を込めた。

「君は本当に可愛いね。」

「うるさいわね。」

「テレビ見なくていいのかい?後ろから抱きしめてあげるよ。」

音からすると、どうやらサオリさんが優勝したようだった。

サオリさんの勝利インタビューには少し興味があったけど。

「湯たんぽは自分で抱きしめるものよ。抱きしめられるものじゃないわ。」

「はいはい。」

ぽんぽんと頭を撫でる彼の手が心地良いのが悔しくて。

ハルカはさらに力を込めて、彼女の湯たんぽを抱きしめたのだった。






おしまい。





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